――泥沼のようなまどろみから引き起こされる。
違和感。
セシル、背後にいるはずの仲間の名前を呼ぶと、低く、うめくような返事があった。
「動けるな」
「ああ…もちろん」
質問ではなく、確認。 動いてもらわねば、困る。
自分たちは、帰らなければならない。 仲間たちの待つところへ。
「――まったく、とんだ失態だよ」
度重なった戦闘による疲労でひどく掠れたセシルの声は、それでも湿ってはいなかった。
「探索のつもりでついてきたのに」
「もとはといえば、お前がもう少し先に行ってみようとか言うからだろ」
「あれ、僕のせいにするんだ。 クラウドだって、勝手にほいほい崖降りたりして」
「原石が見えたんだ。 髪飾りにしてやれる」
ティナやオニオンがよろこぶ。 よろこばせてやれる、はずだったのだが。
擦り傷に切り傷、打ち身だらけで敵に囲まれている、その状況を作った原因について、ひとしきりなすりつけあいをしたあと、仕方ないな、とセシルは笑った。
「僕はあと、牽制数発が限界だ。 クラウドは」
「…同じだな。 でかいのなら一発、メテオは無理だ」
「わかった」
背中越し、それぞれ反対の方へ向かって、照準を絞る。
セシルの左手に白い光球が、クラウドの左手に赤い火球が呼び出される。
「ティーダ、怒るかな」
「怒るだけで済めばいいけどな」
「やっぱり鉄拳?」
「この状況なら確定だろ」
「じゃあ、牽制やめて回復にまわすかい?」
「切り抜けるのが難しくなる。 却下だ」
だよね。 セシルの手から放たれた光の紋章が、進行方向に向かって一直線に飛んだ。 クラウドの手から打ち出された灼熱の炎が、少し離れたところで爆炎と粉塵をまきあげる。
それを皮切りに、岩陰に潜んでいた紛い物たちが湧きあがる。 飛び上がったセシルが瞬時のうちに暗黒騎士の鎧をまとい、群れの上へと落下した。 衝撃に砕かれた敵の破片が散る。
ふたたび宙へと跳んだセシルの足下を、クラウドの大剣が薙ぎ払った。
わずか拓いた突破口目掛けて、二人は地を蹴る。
心配したと泣かれ、無茶しやがってと怒鳴られ、ばかやろうと殴られ。
そして、無事でよかったと抱きしめられる、未来へと向かって。