『――操縦席よりご案内申し上げます。 本日は、バロン航空をご利用いただきまして、ありがとうございます――』
聞こえてきた機内アナウンスの声に、ウォーリアはおや、と耳を傾けた。
少し鼻にかかったような、澄んだ甘い声。 機材越しではあったが、それはよく知る声だった。
隣のガーランドも気がついたようで、同じように上を見上げている。
「ウォーリア。 貴様の弟か」
「…ああ、そのようだ」
弟の一人であるセシルはバロン航空のパイロットだ。 聞いた話では、なかなかの出世頭らしい。
『――本機は現地時間の午後3時30分、コーネリア空港を離陸いたしました。 ミッドガル到着までの予定所要時間はおよそ4時間、現地の気象情報によりますと目的地の天候は晴れ、気温は摂氏18度です』
よどみなく伝えられるお決まりの情報も、弟の声だと思うと妙に嬉しいような気分になる。
ウォーリアの気持ちもわからないではないのか、珍しく微笑んでいるその横顔をとくに茶化すこともなく、ガーランドは自分のベルトをはずしている。
『――コーネリア空港ではあいにくのお天気でしたが、現在本機は地上から上空1万メートルを航行中です。 お近くの窓、あるいはお手元のモニタから、快晴の空と美しい雲海をご覧いただけているものと思います』
そのほかにも航路の途中で見ることができる名勝の紹介など、セシルのアナウンスは続く。
ガーランドが上を見上げながら(スピーカが上にあるので、つい上を向いてしまうのだ)、言った。
「…貴様の弟はよく喋るな」
「……家ではこんな風には喋らない」
ウォーリアも少し意外だった。 家に帰ってきたときのセシルはいつものとおりのセシルで、こんな風に滑らかなスピーチを披露することは少ない。 だけではなく、聴いていると声音さえ違っているように聞こえてくる。
言うなれば、仕事の顔、とでもいうのだろうか。 あの端麗な相貌をきりりと引き締め、制服に身を包みインカムをつけたセシル。 家では聴けない凛々しくも涼やかなアナウンスを聴きながら、やはりウォーリアの顔は締まらなかった。
ごゆっくりおくつろぎください、という声とともに、アナウンスが終わる。 ガーランドが隣を見て、やれやれと腕を組んだ。
「顔がくずれておるぞ。 兄馬鹿め」
「…放っておけ」
機内でガーランドに聞いた話だと(なぜそんなことを知っているのかは知らないが)セシル・ハーヴィという機長の名前はバロン航空の名物機長の一人として有名らしい。
機内で流れる優しい声もそうだが、最大の理由はお見送りの際の顔見せ、らしい。
セシルの同期で同じくパイロットであるカイン・ハイウインドと並ぶ、バロン二大イケメンキャプテンだとか、なんだとか。
今日もそのように出迎えてくれるらしい。 まもなく着陸というあたりから、ところどころで女性のそわそわした様子が見受けられたのはそのせいか、と、ウォーリアは納得した。
ありがとうございました、またのご利用をお待ちしております、という、キャビンアテンダントの女性の声にまじって、聞き覚えのある声の、けれど聞いたことのない口調が聞こえてきた。
昇降口の通路を通り、キャビンアテンダントの会釈に応え、その先で。
「ありがとうござい――」
「セシル」
え、と笑顔のまま止まったセシルが、ウォーリアの顔を見て目をまん丸にした。
「う、ウォーリアッ!? の、乗ってたの!?」
「ああ」
ウォーリアが立ち止まったせいで、若干後ろがつかえている。 おい、とガーランドが短く文句を言った。
目を白黒させたまま、口をぱくぱくと開け閉めしているセシルに、ウォーリアは家族の前でもあまり見せないような微笑を向け、その肩をぽんと叩いた。
「すばらしいフライトだった。 アナウンスもな」
「☆@△◎■$×!!?」
瞬間的に真っ赤になったセシルにくすっと笑って、ウォーリアはそのまま昇降口を出た。
後ろにつづいたガーランドが、呆れたようにぼそりという。
「…お主、意外と意地が悪いな」
「そうか?」
軽く流して、ウォーリアはタラップを軽快に降りていく。 弟たちへの土産話がひとつできたと、満足そうに笑いながら。
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補足とか:
1.ガーさん教授とウォーリア助教授
2.出張でミッドガル(学会かなんか)
3.お見送りしてくれる機長さんもいるとかいないとかって話をきいたのでさせてみた
4.フィンもバロンもコーネリアもミッドガルもガーデンも全部おんなじ世界にあればいい