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ちとにっき

永遠に 生きるがごとく 夢をみる !

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芸術は根性だ

今日は東京の某所で行われた、吹奏楽の某演奏会に行ってきました。
演奏会というか、マニア向けです。

演奏曲目は「未発表、未出版の邦人作品」16作。
演奏団体はコンクールでも有名なバンド数団体で、確かに演奏はすばらしいのですがどれも渾身の力作なので聴くのにかなりの体力を消耗します。

某作曲家の先生が激やせしてて、曲想より演奏よりそれにびっくりしたというね。(笑)


今日は幻水です。 I時代。
なんかもう、みんなぼんが好きです。
誰が一番好きかって私だがな! あっはっは!

ぼんがやってる瞑想は、私が実際本番前とかにやってるものだったりして…。
けっこう効くと思います。 よかったら寝る前とかに試してみてください。

夕暮れどきになると、屋上は人が少なくなる。
高い塔のようなつくりの湖城は、上に行くと風が強いので、夜はあまり人がこないのだ。

開けた土地の少ないこの城で、ここが唯一、何も気にせずに棍を振り回せるところ。


目を閉じ、心に水面を浮かべる。
かたちは真円に近く、波ひとつ、移りこむ雲影ひとつなく。
同じく真円の月が煌々と浮かび、風はなく、底までひっそりと澄み渡った、静寂の水面。


心が揺れれば水面も揺れ、心身に翳りがあれば雲がかかる。
ここのところ特に、それがなくなるまでに時間がかかった。


リカに許されている個人としての時間は、そう多くない。
ひどいときは、それが瞑想だけで終わってしまうこともあった。

それでも、リカはこの作業を欠かすことはなかった。
むしろ、繁忙なときにこそ、暇を見つけては行った。

心こそすべての源であり、一切の些事を取り払った状態に心を戻す。
更地になった心に、新たな感情や、思考を積み重ねる。
師が教えてくれた、武道の心得の基礎の基礎だが、この作業があったからこそ、自分はどうにかここまでこれたと、リカはそう思っていた。



びょうびょうと鳴る風に、水面が持っていかれる。
集中しようと意識するほど、漣はあとからあとから立っていく。
ゆったりと呼吸を繰り返しながら、焦らない、と言い聞かせていた。

「ねえあんた」

なので、背後から声がかかったときには、飛び上がらんばかりに驚いたのだ。
振り向いた先には、横殴りの風に栗色の髪を遊ばせて、入り口の屋根に腰掛けた少年がいた。

「な、…んだ、ルックか」
「なんだとはご挨拶だね」
「いや、驚いたから…。 いつからいた?」
「ずっと」

君が入ってくる前からずっといた、とそっけなく返される。
ということは、彼はリカの瞑想に入る一部始終をずっと見ていたことになる。
リカとしては、風の音が強かったとはいえ、人の気配に気がつかなかった自分と、あまり他人に見られたくない作業だったので、少し気まずい。

「つーか、いるならいるって言えよ」
「フン…こっちに気がつかなかった、アンタの責任だね」

にべもない。
いつもなら、そのまま終了してしまう会話だが、今日は珍しくルックの方が口を開いた。

「…で? 君、そんなところに長いことボーっと突っ立って、何してたの」
「えー…瞑想」
「…ふうん。 ………」

風が少し、弱まった。 リカはルックの方に二、三歩歩み寄る。
含みのある沈黙に、リカは首をかしげた。

「何?」
「……別に。 ………身投げでも考えてるのかと思った」
「……ぶはっ」

ルックの答えに、リカはつい噴き出した。
途端に、ルックがぎろり、とリカを睨む。
秀麗な容貌に零下のまなざしは、年下とはいえちょっとした迫力だ。
悪い、と苦笑して、リカはかぶりを振った。

「こんなところから身投げする勇気はないな」
「だろうね。 君、けっこうヘタレだし」
「ひどいなー。 これでも体張ってるのに」

冗談めかして言うと、これはまた、ルックに鼻で笑われる。
戦いに身を置いている以上、体を張っているのは皆同じことだ。
でも、とリカは改めて、自分よりも身体ごと上にある緑色の衣を見上げる。

「心配してくれたんだ」
「…そんなわけないだろ。 うぬぼれもほどほどにしたら」
「はは、じゃあそう思うだけにしとく」
「………バカじゃないの」

突き放すように言ったルックだが、その場から動こうとはしない。
そんな様子を見て、リカは嬉しくも申し訳ない、という気分になった。
たくさんの人が、リカに気を遣ってくれている。
気を遣わせてしまう己が不甲斐なく、けれどその優しい仲間たちの存在が、この上なく得がたいものに感じるのだ。

「ルック」
「……何さ」
「心配ついでに、もうひとつ頼んでもいいか」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………」
「……………さっさと言いなよ」

持久戦はリカの勝利だった。
アンタホントにイライラする、と、ルックが盛大に顔をしかめた。

「これ、少し和らげることってできるか?」

空を指すリカの指を見て、すぐに何のことか理解し、ルックは不承不承、といった様子でうなずいた。

「仕方ないね」

ルックが腕を一振りすると、トラン湖の上を吹き荒れていた風が不意に止む。
それまで周囲を包んでいた音が一切止んで、耳に痛いほどの静寂が訪れる。

「それじゃ、僕は寝るから」
「ああ。 ありがとうな」
「…………別に」

それだけ言うと、ルックの姿は風に掻き消えた。
折りしも空には満月。
凪いだトラン湖に映りこむ月も、そのまったき姿を欠くことなく輝いていた。


先ほどよりも、心の水面もずいぶん穏やかになっている。
慈しみは月の光のように、リカの心の雲を払い、漣を溶かしていく。

誰もいなくなった屋上で、ありがとう、と、リカはひっそりと呟いた。




15のお題×15の台詞
06. 屋上の給水塔×「こっちに気がつかなかった、あんたの責任」

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