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ちとにっき

永遠に 生きるがごとく 夢をみる !

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千里の道も一歩から

今日は趙馬です!
残すところあと5題! 案外早いもんだー。

人間、できるかできないかじゃなくて、やるかやらないかなんですね、ホント。
ここであともう少しだけがんばれば、きっと後でがんばった自分のことを誇りに思える、と、へこたれそうな自分の前に人参をぶら下げながらがんばるちとです。
蟻の穴から堤も崩れる。
日々感動。

しっかりと掴んだはずの指先が、つるっとすべる。
しまった、と思ったときにはもう遅い。
痛々しい音を立てて、紺色のマグカップは粉々に砕けた。

「孟起!?」

子竜がリビングから飛んできた。
今日は子竜が料理を作る日、だから俺が片づけをする日だ。
家事に不慣れな俺に任せるのを心配する子竜を押し切って、臨んだというのに。

「大丈夫か?」
「子竜…」

床を一瞥すると、子竜はああ…と納得したようだ。
とりあえず動くなよ、と言い置いて、たぶんほうきとちりとりを持ちに行ったのだろう、いったんリビングに消える。

俺は突っ立ったまま凹んだ。 自分の不器用さに。
なによりも、この割れたマグカップは。
子竜が俺と出会った頃、いや、きっともっとずっと前から、愛用していたらしいものだった。

「すまん」

ほうきとちりとりと、それから二人分のスリッパ(俺も子竜も部屋の中でスリッパを履く習慣がない)を持ってきた子竜に、真っ先に謝る。

「いいって。 それより、怪我は」
「俺は大丈夫だ…けど、このカップ」

お前がずっと、使っていたものだった。
俺はそれをずっと知っていた。
誰が来ても、そのカップだけは子竜の専用だったのだ。
それを指摘すると、子竜は俺を見上げて、ふっと目を細めて笑う。

「よく見てるなあ」
「……そりゃ…」
「まあ、確かに古馴染みだったから」

ほうきはひとつしかないので、俺は大きな破片を拾ってはちりとりに入れる。
子竜は念のためにと、部屋の隅までほうきをかけている。
長いこと使ってたしな、と、子竜が返した言葉に、やっぱり、と俺はますます落ち込んだ。
俺より長い付き合いなのだ、あのカップは。 思い入れもひとしおに違いないのに。
それを俺は。 なんというふつつか。

「そんなに気にするなよ」
「でも」
「形あるものはいつか壊れる。 そうでなければ、いつかは使われなくなる」

きっと御役御免だったんだよ、こいつは、と、慰めてくれているのだろうが、こいつ、などという親しみの篭った呼称では逆効果だ。
どうやって詫びようか。

「また買えばいいじゃないか」
「…じゃあ、俺に買わせてくれ」
「だから………まあ、いいか」

ただし、割り勘。
子竜は仕方ない、という風に苦笑して、そこだけは譲らなかった。
割り勘ではつりあわないだろうに、と思っていた俺の疑問は、その後すぐに、代わりのマグカップを買いに出たことで解けた。

「いいタイミングだろう」

ずっと前から欲しい欲しいと思い続けていたのだそうだ。
普通のものよりもずっと分厚く作られたマグカップ。
装飾は一切なく、丸みがあって優しく、けれど素材が厚いからか、どこかマニッシュで、いかにも子竜が好みそうなデザインだった。

「新生活祝い、ということで」

晴れて春から新社会人の俺は、子竜と一緒に2DKのマンションに住むことにした。
家賃は俺の給料だけでは捻出の難しい額だが、二人だから難なく払える。
卒業に向けた準備もそこそこに引っ越して、ようやく落ち着いてきた矢先の今日なのだ。

色は8色。 俺は紺色、子竜はオレンジを選んだ。

「これでもよかったんだけど」

そういって子竜が指差したのは、今、巷で人気の「ハートが浮き出るマグカップ」。

…そんなもの、男二人で使ってみろ。

店から出て、駐車場までの少しの距離。
俺が子竜を見るのと、子竜が俺を見たのは同時だった。

…いざとなると、恥ずかしいが。
やっぱり、おなじことを考えていたんだな。

空いた方の手はつないだ。
もう一方の手には――互いへと贈ったマグカップ。



15のお題×15の台詞
11. 割れたマグカップ×「また買えばいいじゃん」

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