「何だい、これ?」
ユキがリカの手の中を見ながら訊いた。
渡された手のひら大の円盤には、1から12までの数字が円周に沿って均等に描かれている。
中心には鋲が打たれ、そこから短い棒と、長い棒が伸びていた。
「時計って言うんじゃないっけか」
「そのとおりじゃ、よく知っておるな、小僧」
「小僧って」
苦笑したリカも、これほど小さいものを見るのは初めてだ。
偏屈で有名なアダリーも、ことその技術に関しては超一流といえる。
「で? これでどうしろっていうのさ?」
同じように、小型の携帯用時計(もしかしたら、世界初かもしれない)を渡されたルックが、面倒くさそうにシュウを見た。
「二人には、小勢を率いて陽動にあたってもらう。
合図はなし、その時計で決めた時刻になったら、グリンヒルの東西側面で紋章術による威嚇攻撃を行う」
混乱に乗じて、マコトをリーダーにした精鋭部隊がグリンヒルに潜入し、内側からの解放を図る寸法だ。
「なるほどね。 合図もなしにじゃ、向こうも驚くだろうな」
「ただ、その時計はまだ試作段階じゃ。 時間が経つに連れて、進み方が狂ってしまいよる」
つまり、実際の時刻は関係なしに、ただのタイムキーパーとして使うことしかできないというわけだ。
「わかった。 じゃあ…」
「いいよ、合わせる。 アンタの時間に」
開始は今から12時間後、ちょうど時計の短い針が一周したときと決めた。
「よし、行こう」
チッ、と、針が時を刻み始めた。
――――グリンヒル奪還作戦開始、12時間前。