ふとした瞬間に、現在の状況と矛盾することを言ってしまうことが、ないだろうか。
携帯電話をいじりながら、ぽろっと出た一言。
「…あー、猫飼いたいな……猫じゃなくてもいいけど」
その一言に、視界の隅で何かががばりと動く。
あっ、と思った視界の先には、愛犬の姿。
やはり人間の言葉がわかるのか、人間と同じような感情があるのか、どこかショックを受けたような顔をしている。
「ち、違う! ユン!」
おいで、と手で招くと、ためらいつつ、しょんぼりと歩いてくる。
そばまで来た大きな体を、一生懸命なでた。
「ごめん、何の気なしに口から出ただけなんだ。
お前のことは大好きだから。 な?」
むしろ、お前以外は要らない、と、まるで浮気現場を押さえられた亭主だ。
それでも誠心誠意謝るとユンは納得してくれたようだ。
ややあって、控えめにではあるが、甘えるように体をこすりつけてきた。
ああ可愛いなあ、と再認識すると同時に、今度から不用意な発言は控えよう、と固く心に誓うのだった。