賭けは成功した。
クラウドの喉元を狙っていたはずの正確無比の切っ先は、その目的を達する寸前でぴたりと止まる。
「――どうした、クラウド」
あざけるような口ぶりには、乗ってやらない。 剣を握った両腕をだらりとたらしたまま、クラウドは静かにセフィロスを見た。
「あんたは」
あんたは。
俺があんたの剣をつっぱねるのをやめたら、どうするんだ。
セフィロスが笑みを貼り付けたまま、わずかに眉を上げる。
「……あんたんところの魔女は、力が強すぎたからみんなに嫌われて、だからあんな風になった」
スコールから聞いた。 彼の世界でうまれつき魔法が使える女は魔女と呼ばれて恐れられ、その孤独ゆえに人を遠ざけ、傷つけた。
「それから、ジタンの兄貴もだ」
ジタンが言っていた。 クジャは人為的に作られた生命だ、ジタンもそうだ。 クジャは自分がジタンのプロトタイプだということを知っていて、失敗作だという負い目のゆえに世界を憎み、破壊を繰り返した。
「あんたはジェノバの子供かもしれない」
倫理という言葉がばからしく思えてくるような、科学というパラダイムの結晶。 それがセフィロス。
誰よりも強い英雄。 何よりもおぞましい科学の子。
でも。
「あんただけじゃない。 ――寂しいのは、あんただけじゃない」
何がいちばん可哀想だろうか。
記憶がないことだろうか。 親の顔を知らないことだろうか。 愛されなかったことだろうか。 愛し方を知らないことだろうか。 人間から産まれた子ではないことだろうか。
……アイデンティティの欠落者ばかりが揃ったこの世界で、そんなことにいったいどれだけの意味があるだろうか。
「だから」
クラウドは剣を構えた。 構えただけでは受け切れなかった。
遠く、弾き飛ばされて、叩きつけられて、意識はそこで途絶えてしまった。
なんて無茶をしたんだ、と、血相を変えたセシルに怒鳴られながら、ケアルをかけてもらう。
すまないと謝りつつ、結局クラウドは後悔していない。 確信が得られたからだ。
救えるかもしれない、と思った。
誰を、なのかは、わからなかった。