叩きつけるような雨。
季節外れの通り雨に遭って、あっという間に手をとられて走り出した。
逃げ込んだ屋根の下。
夜の風が濡れそぼった肌に冷たくあたる。
冬に雨なんて、と、隣で小さな呟き。
雨は今まさに、全盛期だ。
ちらりと、見る。
やわらかい髪が雨に叩かれて、じっとりと頬に張り付いている。
視線に気付いていないのか、だんまりで空を見上げるそのおとがいの曲線。
思わず、肩を掴んだ。 引き寄せた。
唇が、そこだけは温かい唇が、触れた。
人がいないにしろ、往来であることには違いなかった。
肩を押し返された。
「街灯の下だぞ、わかってるのか!?」
うろたえる彼もきれいだ。
非日常的な状況に、うかされていたかもしれない。
じゃあ、と言って、手近な小石をひとつ。
空に向かって投げ上げると、美しい放物線を描きながら、街灯へと吸い込まれていく。
小さく、パリン!と音がした。
これで暗い、とにっこり笑って、あっけにとられる彼の腕を引いた。
少し離れたところでまた彼のおとがいを掴む。
カシャン、と地面に落ちた、水銀灯の悲鳴は、けれど激しくアスファルトを叩く雨の音にまぎれて消えた。
「……お前はッ!」
くちづけに夢中になっていたら、舌をかまれた。
驚いて顔を離すと、ギラギラと光る目に睨みつけられる。
「だって孟起が」
雨に濡れた孟起が
きれいだったから。
そう、臆面もなく言ってみると、彼は案の定、言葉を失う。
視線がさまよう。
お前ってやつは、でもその先が続かない。
「………もういい、本当……」
疲れた、と髪をかきむしりながら、吐き捨てられた。
そういうけだるげな表情もきれいだ。
と、口にしたら思いっきり殴られた。
雨のせいだ。
やまない雨と、立ち上る霧の、モノクロの世界のせいだ。
あと、孟起の雨に濡れたおとがいのせいだ。
そういう、ことにしておこう。