「きれいだな、帝都」
アールス平野の丘に急ごしらえで立てられた見張り小屋からは、盆地の明りがよく見える。
今日は聖夜だ。 触れられそうなほどに迫る星空と、地に瞬く人々の営みの炎。
「俺たち、これからあそこ攻めるんだよな」
ああ、と、返した。
進んでこの日の当番を買って出た俺に律儀に付き合って、わざわざ寒空の下でカップの中身を啜りながら、ささやかに聖夜を祝う、隣のこいつ。
見るからに暖かそうなコートを着込んではいるが、鼻の頭が真っ赤だ。 きっと俺も同じだろう。
「あークリスマス、終わるなー」
今は戦局も大詰めで、クリスマスだからと祭りをやってる余裕なんてどこにもない。
本当ならきっと、盛大にやりたいのだろう。 こいつは人が楽しめる場所をやたらに作りたがる。 自分がそうされるのはいやがる割に。
「なあフリック、戦争終わってさ」
リカはじっと、外を眺めてこちらを見ない。
「この国がもっとのんびりできるようになったら、やろうぜ、クリスマス」
すげー派手に。
そう言ったリカの目に映る、ちらちらと反射した光も星のようだった。
そうだな、とだけ返した。 それ以外の言葉を、思いつけなかった。
眼下にひときわ、光の粒の集まる場所。
もうすぐ、俺たちはあの帝都を攻める。 トランで一番、美しい都を。