「お待たせ」
ユン、と名前を呼ぶと、待ちかねたようにワン、と返事が返ってくる。
ユンと共に外に出るのは、これで二度目だった。
といっても、先週末は少し散歩に出かけて、あとは21階を一緒に走り回っただけだ。 ユンにも思いきり走り回ることのできる場所が必要だろう。
鍵を開けると、いつものようにぴったりと膝元に寄り添ってくる。
一歩踏み出そうとして、あ、と思い出したように声を上げた飼い主を、ユンがおもむろに見上げた。
「リードいるか? ユン」
付けられる当の犬に訊くのも可笑しな話だが、試しに馬超は訊いてみた。 一応と思って、リードも揃えてはあるのだ。
ユンはそれを聞くなり嫌そうな素振りをして、フイと顔を背けて馬超を置いていってしまった。
人間であれば、失礼しちゃう、とでもいったところか。
どこか憤然とした背中に噴き出しながら、ごめんごめんと繰り返して、馬超はその尻尾を追って部屋を出た。