「…はい、もしも――」
『あっ! でた! コスモス!』
『ク、ク、クラウド! コスモス! コスモス!』
受話ボタンを押したとたん、電話口からきゃあきゃあと聞こえてきた子供の声に、コスモスは一瞬びっくりして目を瞬いた。 てっきり、家から電話をかけてくるのはウォーリアくらいのものだと思っていたからだ。
「その声はバッツかしら? どうしたの?」
『あのね、あのねコスモス、あのね』
慌てているのだろうか。 うまく言葉が出てこないらしい。 後ろからクラウド!クラウド!と必死に呼ぶ声が聞こえるのは、おそらくセシルだろう。
『う、ウォーリアがね、あのね、うんうんしてるんだ!』
「…うんうん? なにかしら?」
『もわもわして、あっついんだって! ええとね、ええとね』
『バッツ、バッツ、ね、ね、ねつ』
『あ、そう! ねつがあるんだって!』
「――まあ」
ウォーリアが熱を出したらしい。 それで、小さい弟たちは大騒ぎだったのだろう。 あやまって子供の手に触れないように、薬の類はウォーリアしか手の届かないところに置いてある。
「大丈夫かしら。 おへんじしてくれた?」
『うん! でもふらふらしてた!』
「あらあら」
『それでね、それ――あっ!』
『――もしもし』
バッツの声が遠くなったかと思うと、相変わらず子供の声だが、今度は少し冷静な声が聞こえてきた。
「クラウド?」
『うん。 ――ウォーリア、きもちわるくてうまくしゃべれないみたいなんだ』
クラウドー!という抗議の声がうしろから聞こえてくる。 受話器をひったくられたらしい。
クラウドの背中にしがみついているであろうバッツを想像して、コスモスは思わず微笑んだ。
「熱は測った?」
『うん…39度ぐらい』
「あらあら…それはちょっと大変ね」
『うん。 ウォーリアしか、くすりのあるばしょ知らないから』
「そうだったわね。 でも、そんなに熱があるんだったら、病院にいったほうがいいわ。 迎えにいくわね」
『うん』
歳の割にしっかりとした受け答えをこなすクラウドは、二人よりも年かさだ。 ウォーリアがいないときは、二人の面倒を見てくれる。
じゃあ、と電話を切ろうとしたコスモスに、クラウドが、まって、と声をかけた。
『セシルが、しゃべりたいみたい』
「そう? じゃあ、替わってくれる?」
『うん』
『――コ、コス、モス』
か細い声が、受話器から聞こえた。
「どうしたの? セシル」
『あの、あのね、あ、あ、の』
引っ込み思案なセシルは、親しい人と話すのにも、どもる。 促すことはせず、じっと聞いていると、小さな小さな声で、おにいちゃん、と聞こえた。
「お兄ちゃん? ……セオドールくん?」
『う、う、うん。 げ、げ、げんき、ですか』
「元気よ。 セシルがいい子にしてるか、いつも心配しているわ」
『ぼ、ぼく、いい子、です! お、おにいちゃ、ん、も、いい子、ですか?』
「セオドールはとてもいい子よ。 セシルがいい子にしているって、伝えておくわね」
『は、は、はい!』
セシルには実の兄がいるが、事情があってコスモスがセシルだけを預かっている。 兄セオドールは叔父であるフースーヤのもとで学んでいて、時折彼の助手として姿を見せた。
『――もしもし』
「はいはい。 それじゃあ、切るわね。 30分くらいで、行くから」
『――うん』
再びクラウドの声が聞こえた。 自分も兄が倒れて心細いだろうに、気丈に振舞うクラウドがいじましかった。
会話の終わった携帯電話を微笑みながら眺めたあと、カオス先生と学務に早退の旨を伝えなければと、コスモスは学内用の内線電話を手に取った。