趙雲は目の前のそれを手にとって、ながめた。
乳白色で、手触りは滑らかである。
硬質な感触だが外殻は厚みがないらしく、ほんの少し力を入れれば割れてしまうだろう。
熱を伝えにくいのか、温度の伝わらない少しいびつで小さな球体は、手の中でさらりとした面を晒している。
「これを生で?」
はじめてみたように、ためつすがめつする趙雲がおかしいのか、馬岱はくすくすと笑っている。
馬超はといえば馬岱の脇で、憮然としている。
これから旨いものを食おうというときに、趙雲が待ったをかけたのだ。
無粋なやつだ。
「そうですよ。 私たちの間では、生が普通でしたが」
「そうなのか…」
趙雲が知る限り、この薄い殻に覆われた球体。
食する場合は、殻を割り、中身には熱を通すものと筋が決まっていた。
それを彼らは、殻を割るところまでは同じだが、生で食べるのだという。
「大丈夫なのか?」
というのが、素直な心境だ。
親の腹に虫はいないといわれているものの、どことなく気味が悪い。
「大丈夫ですよ。 現に私たち、元気ですし」
たまに「あたり」が出る。
つまり、中身が育ちすぎて、固体が出てくるのだ。
それを故郷では、吉兆として喜んだ。
趙雲がますます妙な顔をする。
その顔を見て、馬超がついに咬みついた。
「お前、さっきから見ていれば化け物でも見るような顔で見おって」
「いや、そんなつもりは」
「うるさい、つべこべ言わずに食ってみろ。
西涼の男は、これを食えねば男ではない」
そんなことはないのだが、趙雲が極西の文化など知るわけがないから構わない。
言って、趙雲の手から件のブツを奪った。
趙雲が、あ、という間に、馬超はそれを軽く卓にぶつけ、できたひびから器用に片手で殻を二つに割った。
どろり、と姿を現した、生のままの中身を口に受け止める。
「…………」
二、三度咀嚼して飲み込み、つるりとした喉越しを堪能する。
馬超はこれが割合に好きだった。
趙雲は、間抜けに口を開けたまま、今しがたの一瞬の出来事に呆気に取られている。
「まあ、ところ変われば品変わる、と言いますし」
馬岱が手に持っているのは、中身を鉄板で熱したものだ。
馬岱も焼いたものを見るのは初めて、もちろん焼くのも初めてだが、白い円の真ん中に浮かんだ黄色は未だ少し濃く、その料理でもっとも美味しいといわれる火のとおり具合である。
「兄上はこっち、趙将軍は試しに生で食べてみる、ということで」
どうでしょう。
と、相変わらず微妙な顔をして睨みあう二人の間に立って、にっこり笑う馬岱。
それに向かって、苦々しい二つの声が重なった。
「生卵などと」「目玉焼きなどと」「「邪道だ!」」