また三成さんが止まった。
こうなると俺は、じっと待つしかない。
彼はけっして頭が悪いわけじゃない。
打てば響くし、むしろかなり回転は速いほうだろう。
ただ、悪癖があるのだ。
普通の人が何気なく飛び越えてしまえるほんのちょっとした言葉の溝を、
しげしげとのぞいてしまうという悪い癖が。
それは、タバコの自動販売機の横にかけられていた広告だった。
それを、三成さんは見ていたのだ。
「これは、恋人になぞらえているのだろうか」
「燃えて吸われて捨てられて……ですか?」
『燃えて吸われて捨てられて、たばこじゃなければ泣いている』。
愛煙家の俺としては非常に居心地を悪くさせられるコピーだ。
だいたい、こんなものを自販機の脇に貼っておくなんて、
売りたいのかそうでないのかわからない。
「よくわからんな、これ」
はじまった。
「たばこでなければ確かに泣くのかもしれないが、
たばこは泣かないだろう」
まあ、そうですよね。 泣いたら火が消えますもんね。
「たばこのほうだって勝手に決めつけられても困るかもしれん」
…そうかもしれませんね。
「俺はたばこに生まれたらたばこの人生を全うする。
燃えて吸われる、それが俺の人生だ」
そうですね。
…っつーかたばこの人生っておかしくないですか。
しかも、いつの間にたばこイコール自分になってるんですか。
「燃えて吸われて、もはや煙草の用をなさなくなった俺は、もはや俺ではない。
そんなぬけがらを持っていても仕方のないことだ」
三成さんがたばこだったら、もったいなくて吸えませんよ。
「それは違うぞ、左近。 たばこは吸われるためにあるのだ。
たばこは吸われて捨てられて、初めて輪廻を完成するのだ」
食べ物といっしょですか。
「そういうことだ。 お前の優しさが俺を吸わずにおったのだとしても、
それによって俺の魂はずっと現世にとどまってしまい不浄を生む」
それは嫌ですね。
「それにな、左近」
はい。
「俺はたとえ、燃やされて吸われて捨てられる運命にあったとしても、
お前にされるのであれば、喜んで受け入れよう」
……………。
「おわっ!? なんだ左近、苦しいぞ! おいっ!」
三成さんが人間でよかったです。
左近はうれしいですよ。
……んで、三成さん。
三成さんはたばこじゃありませんが、ちょいと吸ってもよろしいですかね?