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ちとにっき

永遠に 生きるがごとく 夢をみる !

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なぞのおくすり2

じつはちびちび書いていた、ぼんなのこのはなし。(略し方のセンスが相変わらずである)
ぜんぜん進んでません。 このおはなしは、こんなかんじでだらだらやろう…。

それはいいんだけど。 問題はリクエスト本来の意向からどんどん離れていってる気がするってことだ…。
真剣な目をして日本女性の平均的なバストサイズなんか調べてる場合じゃない。

もしほかの方が書いたらもっとファンタシーで浪漫な感じになるのかもしれないのに、わたしが書くとデリカシーの欠片もない感じになっちゃうんだよな…。 性格だな…。
ファンタジー世界の人間にすね毛はえてても平気です。 むしろばっちこい。 乳ゆれもばっちこい。

大学の友人に「おっさん」とか呼ばれるわけだよ。

「どう思う?」
「……どうって…」
「いや、なんでかなーって。 やっぱり、あのおくすり?」

そうとしか考えられなかった。 カズラーの毒にそんな劇的な効果はないし、ハイ・ヨーのレストランの食材はどれも100%本拠地産の折り紙つきだ。 何が間違っても、男が女になどなるはずがなかった。
ううん、と唸ったユキの返事は、ほぼ肯定だ。 肯定しながら、どうやらほんとうに女の子になってしまったらしいリカを、あらためて眺めてみる。

骨格は完全に女性のものだ。 そうとわかって見てみれば、明らかにひとまわりほど小さい。
それだけでなく、身体を構成するすべてが女性になってしまったらしい。 髪も肌も、色こそそのままだが、どこかやわらかそうな印象になっている。
同じ人間でも、男と女ではこんなに違う。 その摩訶不思議に、ユキは再び唸った。

そして、一通り概観を終えると、目線は当然細部へと移る。 首が細い。 女性をじろじろ眺めるのは気が引けるので、あまり仔細に観察したことなどなかった。 ユキももとから細身だが、簡単に折れてしまいそうなほど細いということはない。
女性は本当に骨が細いのだ、と感嘆しながら視線が降りる。 しなやかな肩の稜線を通り過ぎると、そこには悩ましげな曲線が――

「ちょっと、どこ見てんのさ」

おっと、と視線をもどすと、リカが胡乱げにユキを睨んでいた。
さすがに乳でしたとは言えない。 別に、ととぼけたユキに、リカは大げさに胸の前で腕を交差させてみせる。

「いやあね、男の方って正直で」
「…お前だってさっき、自分で揉んでただろ」
「俺はいいの」
「なんでだよ」
「だって俺のだもん。 触りたいなら触ってみる?」
「触るか!」

なんでそうなる!と、突っ込みついでに枕を掴んで投げつける。 ぱすんと音を立てて受け止められたユキの枕は、そのままリカの身体の前に抱え込まれた。
受け答えに余裕がないユキが面白いのだろう。 にやにやしているのはこの際放っておくことにした。

「…とりあえずは、服をなんとかしないとな」
「うーん。 やっぱり、このままじゃまずいかな」
「まずいだろ…。 動きにくくないのか」
「動いてないからわかんないけど。 でも」

リカの視線が胸元へと落ちた。

「確かに、なんかしとかないと、動くたび揺れそう」
「…………」

気さくなのは長所だ。 しかしこうなると、単なるデリカシー欠落である。
どう答えろというのだろう。 こちとられっきとした男なのだ。 揺れる揺れる!あるある!なんてこと、口が裂けても言えるものか。
それを言って聞かせるべきか、ユキは悩んだ。 悩んで、やめた。
きっと、リカは無自覚だろう。 この坂をのぼったら足が疲れそう、くらいの感覚で口にしたに違いない。
自覚のない相手に一から説明することの面倒さに、ユキは負けた。 代わりに久しぶりに、本当に久しぶりに、心底からため息をつき、うなだれる。
そうさせた張本人のリカは、しかし自分の言動についてまったく自覚がないようだ。 なんでユキがへこんでんの、と無邪気に首を傾げていた。
もういい、と、力なくかぶりを振る。

「…とにかく、マコトには知らせないと」
「そうだね。 あとはシュウ軍師とか…まあ、いつまでこの状態かわからないから、遅かれ早かれみんなに言わなきゃならなくなるだろうけど」
「…元に戻る心当たりとか」

予測はつくが、一応訊いてみたユキに、リカは肩をすくめて答える。

「あったら俺が訊きたい」
「だよなあ…」

現状、お手上げである。 体調が悪いというわけではないらしいのが、唯一の救いだろうか。

「二人して唸ってても仕方ないだろ。 とりあえず、マコトのところ行こうぜ」
「…そうだな」

よっ、とリカがベッドから飛び降りた。 着地した足音も少し軽い、気がする。
気がするだけか、と、ユキはぼんやりと思った。 リカが、あ、と声を上げる。

「だめだ」
「…は?」
「やっぱ揺れるわ。 意外に重いのな、乳って」
「………」

早く解決策が見つかりますように!
ユキは心の底から祈った。

*

「ええーーッ!? リカさん、女の子になっちゃむぐッ」
「ばッ、ナナミ!! 声がでかいよ!」

リカの姿を目にした二人の反応は、概ねユキと似たようなものである。
先に我に返ったらしいナナミがあげかけた大声を、それで現実に戻ってきたマコトがはっしと止める。

「……ほんとに? ほんとに? 女の子になっちゃったんですか!?」
「うん。 嘘みたいだけど、ほんとなんだよね」

覗き込んだナナミにうなずいて、リカは自分の脇から腰にかけてをなぞってみせた。 男性の骨格ではありえない、目に柔らかな曲線が描かれる。
それを見て、ナナミはほんとだ、と大いにうなずいたが、マコトとユキは思わず目を泳がせてしまった。
いまのリカは完全に女性だ。 しかも日頃からしっかりと鍛えてあるせいか、締まるところは締まり、出るところはきれいに出ている。
リカの手の動きを目で追えば、張りのある胸のふくらみやきゅっと細くなった腰の造形がはっきりと連想できる。 早い話が、目のやり場に困ってしまったのだ。

「服とか、どうしたらいいかなと思って。 ナナミちゃんに助言がほしくてさ」
「うん、うん、そうだよね…! 今の服だと、ちょっと合ってないみたい…」

ナナミが言うとおり、今の服では寸が余っているところも、逆に窮屈そうなところもある。 男性の服を女性が着ている、まさにその状態なのだ。
動きやすさを重視して作られていたリカの今の服には、女性が着るには少し大胆すぎる切り込みがある。 そこから覗くのも、男性の健康的な肌ではなく女性の滑らかな柔肌だ。
罵るなかれ男の性。 ついついそこばかり眺めてしまいそうになるのをごまかして、ユキは小さく咳払いをする。

「まあ…とりあえずはナナミに選んでもらうか」
「うん、まっかせて! リカさん、わたしがうんと可愛いの選んであげるからね!」
「え、あ、いや」

動きやすければ、別段可愛くなくてもいいんだけど…と言いかけたリカだったが、善は急げとばかりに腕を引っ張られて中断させられる。
お買い物!と、自分のことでもないのにはしゃぐナナミに連れられ、やってきた先の看板を見て、リカは思わず後じさった。

「あの、ナナミちゃん」
「ん? どしたの??」
「……も、もしかしなくても、ここってさ」

ナナミ一人に丸投げというのも申し訳なくて、後ろをついてきていたユキとマコトも、店の看板を見て硬直している。
振り返った先でそれを見て、己の反応が間違っていないことを確信して……絶望的な気分になった。
素朴に首を傾げているナナミに、力なく扉の上の掛け看板を指差す。

「あの、いわゆるひとつの……下着屋さん?」
「うん、そうだよ!」

やはり、というか、それ以外の何ものでもなかった。
ハンスが防具屋の脇で営業している、日用的な衣類の店のうち、女性用の衣類を集めた一角。
その中でも、男である限り一生足を踏み入れることはないと思っていた場所だった。
その場所に対する認識としては、聖域、あるいは魔境。 男とは決して相容れない空間。

「だって、まずはブラジャーを買わなきゃ!」

ナナミの台詞は、ギャラルのごとく、リカの男としての世界に一旦終末を告げた。 後ろの男二人にも、相応のダメージはもたらしたようである。

「えっ、いやでも、ちょっと待って」
「え? え? どうして?」
「お、俺ほら、揺れなければいいかなって…わざわざその、ぶ、ブラジャーとか買わなくても」
「えー、だめだめ! ちゃんとしたのつけないと形が崩れちゃうんだよ!」
「そ、そうなんだ…じゃなくて! だ、大丈夫だからあの、」
「それにリカさん、胸けっこうおっきいし…ちゃんと支えてあげないと肩が凝っちゃうと思うな」
「うっ……そ、そうなの? いやでも」
「せっかく女の子になったんだし、かわいいのつけようよ! ね? ね?」

言い返せなくなったらしいリカが、助けをもとめてユキとマコトを見た。 若干泣きそうだが、男二人は男二人でかまっていられる余裕がない。 まさか往来で、ブラジャーの効能について講義を受けるとは思ってもみなかった。 ついでにナナミが言うには、リカの胸は大きい、らしい。
リカが女性用の下着売り場に連行されそうだということより、ブラジャーってそんな意味があったのか…という感心と、で、Dくらいかな…という不毛な想像とが、いまの彼らを支配していた。
助けを得られなかったリカが、あえなく魔境の門へと引きずられていく。 二人はそれを、ただただ見守るのみであった。
女の子二人(便宜上)が消えてしまうと、女性用下着店の前に立つ男性二人はどう考えても怪しい。 道行く人が、怪訝そうに見ては過ぎ去っていく。
そのことにようやく気づいた二人は、慌ててその場を離れた。 何も悪いことはしていないのに、何かを弁解したい気分である。

「…とりあえず、二人待ちか」
「……女の子の買い物って、長いんですよねえ…」

ダブルデートの彼氏組のような台詞だった。

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